きみはきっと笑うだろう

記録とか歌詞とか、今の私とか。

20131211 12:04

歩んできた軌跡(トキ)はここに
ここに?
それはどこに?
確かにあるんでしょうか
この目に見えもしないものを
あなたたちは信じろなんて言うから
「そんな風」にいられたら
きっと楽なんでしょうけれど
あいにく私は馬鹿ではあっても
阿呆じゃないのよ
ほらみなさいよ
そう言うことは出来やしないだろうけど
でも私笑ってやるわ
あなたたちが私を可哀想だと言うのと
おんなじように私も思うわ
可愛そうな人たち!
その調を私も
謳ってあげるなんてことは無いけれどね
嘆いていたらいいわ
憂いていればいいんだわ
私はそれで喉を潤すの
同情はしてあげましょうか
其れが
あなたたちを殺すとしても
酷いと言われたって
そんなの知らないわよ
始まりはあなたたちだった
私は
日々の中では終わらない

 

 

20131203 22:01

 

闇夜の蛍。飛び回る彼は言う。

「気づかないでしょうけれど、月すらないの」


ああ、本当。空が真っ黒。

いつも、重なる陰の隙間から射し込んでくるものは、嘘だったのかしらね。

「さあ、知らないよ」



でもね、と彼は続ける。

「所詮そんなものなんだ」


もうすぐ夏が終わる。

儚い幻であったかのように、その内に彼らはふいと消える。名残すら見付けられなくて。

「いいんだよ、それで」



「きっと初めから無かったのさ」






ふわりふわりと、中空を漂いながら。私は、微かに目の奥に残る、やがて消える軌跡を追っていて。

だからね、光る君は言う。

「黒染めの衣ばかり重ねることなんか、お止めなさいな」





疾うに廃れて、沈む日を背に海を渡ってきたものに、想いを託してどうするというんでしょう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一面の雪の中に花が一輪咲いていたらきれいだと思う。

それが、血のように紅い花ならなおさら。

 

黄や青、紫だって同じでしょう?

 

いいえ、いいえ。

あの色でなきゃ駄目なのよ。

 

色を探して、さがして

鮮やかなひかり、いたみ。

 

泣き出してしまいたかった。

そこに身を投げ出して、叫びだしてしまいたかった。

 

でも、触れられない。

 

自らの両の手を広げ、見る。

ああ、私じゃあれに、さわれない。

 

眩しさに目を細めながら、微笑いました。

そうしたらきっと笑ってくれるだろうから。

 

ああ、本当。

なんにも知らないのね、きっと、ずっと。

 

 

20131209 22:11


いつからなの?

そんなの知ってりゃ苦労しないわよ。

 


*

 



昼の街を歩けば、若者たちの笑い声。

異質な世界に迷いこんだような錯覚に陥る。

このどこか壊れたような違和はいつまでたっても慣れない。

到底理解出来なかった。

 



何もかもがマヒしてる。

その不自然さに侵されて、私も、いつの間にか。

 



原因は定かのように見えるけど、

いいえ、違うの。

この胸を蝕む痛みは―――。

 



*

 


痣じゃないよ、これは、汚染なの。

 

 

20131207 20:38



【終夜】










それはだれ?
君はどこ?

 



*

 



舞台は閑静な街路のようです。






スポットライトが、舞台の真ん中照らす。辺りは薄闇。
不揃いな生ではなく合わさった、
潜められた呼吸(オト)が静を飾る。
ひとり踊るのは、木偶人形。からりからりと音がひびく。
引かれて歩く、吊られて跳ねる、終わらない。
ぜんぶぜんぶいて、みんなみんなある。
嗚呼、嬉しい、嬉しい。まるで夢。

 



ゆめ?
彼は首を傾げる。
聞き覚えのない言葉だ、
そんなもの彼は知らなかった。知らないはずだった。
ゆめ、夢?
あれ、なんだろう?なんだか...
ぐにゃりと、視界が歪む。

 




遠く広がる灰の土壌に。カラカラカラと、乾いた風が吹いて。
蜃気楼、何もなかった。
思い出した、「これ」が夢だった。
糸は切れて、動くものはもうない。
慣性に逆らわず、感性はしずめられて。

 



消灯。歓声、喚声。
まったく五月蝿いものです。

 



*

 



向こうで落下しているのは。
あれはぼく。







 




これで完成。
さあ、開幕しましょうか。


本日の演目は―――

 

 

20131209 22:11

 

本当、ひどい人。

そういって君は微笑うけど、

何だかその色は、声は、泣いているようで。

 


渇いた喉を潤すものは、ここにはない。

それは私が、手放したもので、

手が届かないもので、

手を伸ばすことすら、しなかったもので。

 


光が、音が、この胸を灼いて。

息ができなくなる。

言葉は喉に張りついてとれなくなった。

 

 

20131207 20:28



【前夜】










隣の部屋からは一定のリズムで鼾声が響いてきていた。
それを聞きながら、彼はひとつ息をついた。随分深刻さを帯びた響きだった。
全く、徒に争うことに、一体なんの意味があるというのか。力と恐怖による支配など、所詮続きはしないというのに。ただ己を誇示したいだけだろう。あの方はご存じないのだ。自ら戦場に赴くことなどしないのだから。
彼は今一度、胸に溜まった重い息を吐き出した。


あの、凄惨さ。飛び散る血と肉片。響くのは狂ったような叫びと、元は冷たく、鈍く光っていた、そして今ではその名残さえ見つけられぬほどの、断末魔の赤に染まった金属、それらが幾度もぶつかり合う音。そうして日が暮れ、焚き火を囲んでの一時。誤魔化しの休息に身体を休める間も、鼻にこびりついて離れない、臭気―――


夜中に彼は目を覚ました。辺りを見回し、其処が自分の寝室であることを確かめると、ほっと胸を撫で下ろした。随分、久しぶりに見た。嫌な夢だ。あの頃、戦争が終わったばかりの頃は、こうやって毎晩飛び起きては、独り朝がくるまで布団の中で息を潜めていたというのに。一体いつの間に、夢に脅かされずに眠れるようになったのだろう。夕に感傷に浸ってしまったせいかな。彼は一瞬だけ自嘲気味な笑みを浮かべ、そうして次には、この数日の間に半ば日課の様になってしまった、その夕の謁見の内容について思いを馳せていた。


今日もまた、己の諫制は聞き届けられなかった。どうしてあの方は、此処まで力での支配に囚われるようになってしまったのか。今も他国には内密に、改良に改良を重ねた、新しいタイプの大砲を監製させている。元から確かに箝制を好むところがあり、危うさを感じることはあった。その度にどうにか其れを正そうと、言葉を重ねてきた己の努力は無駄だったのだろうか。彼は小さく頭を振った。いけない、思考が悪い方に向かってしまっている。少し気分を変えようと、彼は幼い頃暮らしていた、懐かしき故郷の風景を呼び起こした。



都とは違う、豊かな緑に囲まれた小さな村。仲間たちと遊びに入った山は音に溢れているのに、静かで心地好い。彼は一人でもよく山に入った。流れる風に身を委ねて、澗声に耳を傾けているのが好きだった。でも一番好きだったのは―――。春。何時もなら立ち入らない山奥、小高い丘があって、その頂上。其れを見つけた時、彼は思わず感声をあげた。其処にあったのは、一本の大木。風が吹くたびに淡い色の欠片が、無数空を舞う。桜だ。思わず呟いたそれに、静かな声が答える。綺麗でしょう?誰にも言っちゃだめよ、君にしか教えてないんだから。彼女は微笑った。



一番好きだったのは。彼は薄い微笑みを浮かべながら、閉じていた目をそっと開いた。あの少女と見た桜。名も知らない子だった。不意に現れて、いつの間にか消えていった。まるで、桜のような少女だった。そういえば、と彼は思う。自分たちはどうして別れたのだっけ。あの、桜は――。不意に、キィンと耳鳴りがした。彼は顔をしかめてこめかみを抑えた。耳の奥で、音がする。幾つもの音が重なった、これは、人の声と...水と、風の音?寒寒と冷えきったような――。彼は目を見開いた。嗚呼、そうか。今ではもうはっきりと分かるその音たちは、徐々に大きくなり、混ざりあい、別のものを作り出していった。

 


それは、彼が厭う――喊声。

 

 

 

 

 

 

20131207 20:27



【初夜】










可哀想な少年のお話です。少年は「よくでき」ていました。その姿は大層「美し」く、「お勉強」も「運動」もできました。「友だち」もいっぱいいました。「将来」沢山の発見をするでしょう、「大人たち」は持て囃しました。それは歪でしたけれど、そのことには少年以外、誰も気づいちゃいませんでした。ですのでやっぱりそれは、「素晴らしいこと」で、少年は「幸せ」であったのでした。嗚呼、でも。甘井先ず竭くとはよく言ったものです。少年のことが妬ましくて、疎ましくて。その人たちはどうしようもなかったのです。だって彼らは、「お勉強」も「運動」もまあまあだったし、「見目麗し」くもなかったのですから。でも友達はいましたから、ついでにいうと、「大嫌い」な「大人たち」にも一泡吹かせられます。だから仕方なかったのです。嗚呼、あはれ。少年は陥穽にはまりました。枷を填められた手足はもう、字を書くことも、走ることもできません。それどころか、ものを食べることもできないので、そのまま暗い洞穴の中で、最後に見た沢山の人びとの冷たい侮蔑の目だけに焦がれて――実際、暗闇に押し込められる直前のことでしたから、彼らの後ろから差す光に焼かれて、見えていなかったでしょうけど、その色をしていることだけは知っていましたから――死んでしまいました。明るきを歩むはずだった少年の、行き着いた先は檻穽。でも少年は怒ってはいませんでした。だって少年だけは、歪を知っていたんですから。此れで元通りです。全部少年が生まれる前に戻り、歪みは完整させられました。だから少年は、ほんの少しだけ微笑いました。それは今までに劣ることなく、きれいな笑いでした。少年は、最期まで美しさだけは失くせなかったのです。ただこれは、少年すら知らないことでしたけれど。