きみはきっと笑うだろう

記録とか歌詞とか、今の私とか。

20131207 20:27



【初夜】










可哀想な少年のお話です。少年は「よくでき」ていました。その姿は大層「美し」く、「お勉強」も「運動」もできました。「友だち」もいっぱいいました。「将来」沢山の発見をするでしょう、「大人たち」は持て囃しました。それは歪でしたけれど、そのことには少年以外、誰も気づいちゃいませんでした。ですのでやっぱりそれは、「素晴らしいこと」で、少年は「幸せ」であったのでした。嗚呼、でも。甘井先ず竭くとはよく言ったものです。少年のことが妬ましくて、疎ましくて。その人たちはどうしようもなかったのです。だって彼らは、「お勉強」も「運動」もまあまあだったし、「見目麗し」くもなかったのですから。でも友達はいましたから、ついでにいうと、「大嫌い」な「大人たち」にも一泡吹かせられます。だから仕方なかったのです。嗚呼、あはれ。少年は陥穽にはまりました。枷を填められた手足はもう、字を書くことも、走ることもできません。それどころか、ものを食べることもできないので、そのまま暗い洞穴の中で、最後に見た沢山の人びとの冷たい侮蔑の目だけに焦がれて――実際、暗闇に押し込められる直前のことでしたから、彼らの後ろから差す光に焼かれて、見えていなかったでしょうけど、その色をしていることだけは知っていましたから――死んでしまいました。明るきを歩むはずだった少年の、行き着いた先は檻穽。でも少年は怒ってはいませんでした。だって少年だけは、歪を知っていたんですから。此れで元通りです。全部少年が生まれる前に戻り、歪みは完整させられました。だから少年は、ほんの少しだけ微笑いました。それは今までに劣ることなく、きれいな笑いでした。少年は、最期まで美しさだけは失くせなかったのです。ただこれは、少年すら知らないことでしたけれど。