20131207 20:27
【初夜】
可哀想な少年のお話です。少年は「よくでき」ていました。その姿は大層「美し」く、「お勉強」も「運動」もできました。「友だち」もいっぱいいました。「将来」沢山の発見をするでしょう、「大人たち」は持て囃しました。それは歪でしたけれど、そのことには少年以外、誰も気づいちゃいませんでした。ですのでやっぱりそれは、「素晴らしいこと」で、少年は「幸せ」であったのでした。嗚呼、でも。甘井先ず竭くとはよく言ったものです。少年のことが妬ましくて、疎ましくて。その人たちはどうしようもなかったのです。だって彼らは、「お勉強」も「運動」もまあまあだったし、「見目麗し」くもなかったのですから。でも友達はいましたから、ついでにいうと、「大嫌い」な「大人たち」にも一泡吹かせられます。だから仕方なかったのです。嗚呼、あはれ。少年は陥穽にはまりました。枷を填められた手足はもう、字を書くことも、走ることもできません。それどころか、ものを食べることもできないので、そのまま暗い洞穴の中で、最後に見た沢山の人びとの冷たい侮蔑の目だけに焦がれて――実際、暗闇に押し込められる直前のことでしたから、彼らの後ろから差す光に焼かれて、見えていなかったでしょうけど、その色をしていることだけは知っていましたから――死んでしまいました。明るきを歩むはずだった少年の、行き着いた先は檻穽。でも少年は怒ってはいませんでした。だって少年だけは、歪を知っていたんですから。此れで元通りです。全部少年が生まれる前に戻り、歪みは完整させられました。だから少年は、ほんの少しだけ微笑いました。それは今までに劣ることなく、きれいな笑いでした。少年は、最期まで美しさだけは失くせなかったのです。ただこれは、少年すら知らないことでしたけれど。
20131206 07:11
羊は夢に生きるもの
夢は空、穴は埋まらない
進めない、進めない
私はわたしに呪をかける
ここから先は、進めない
呼びかける声は届かない
掬うたび、広げた指の間からこぼれ落ちて
貰えない、そう言ってただただ嘆いていて
目覚めなければいいのに
喰われてしまえばいいよ
20131207 20:17
君の殺戮の物語
【初夜 ‐夢を殺す‐】
【前夜 ‐ を殺す‐】
【終夜 ‐ を殺す‐】
夢を、過去を、今を殺す。
明日はない。
だって君も僕も、もういないから。
20131205 21:07
痛みこそ愛だと、そう呟いたのは誰だったかしら。
そうは言ってもやっぱり、其れだけでは生きられないのにね。
どうしたって手に入らないから、こんなにも焦がれるのかしら。
そんなことはないはずだわ、きっと、どうか。
知らぬまま朽ちるのは、かなしすぎるから。
誰か、誰か、愛することを教えてください。
20131205 22:54
真夜中
星がうたうよ
きらめいて
かがやいて
夢を運ぶ道をつくる
こんなものでしか示せなくて
悪いとは思うけどさ
君たちは形あるものしか
信じられないから
寒い夜
星がうたうよ
おとなしの細いこえ
君たちは見上げることをしないから
代わりに伝えてあげよう
*
鈴の音が響いたような気がして、空を仰いだ。
Xmasの唄
20131205 08:51
それでも 聞くことが出来ないのはどうしてなんだろう
やさしいから 届かないから
期待はしないよ 願いもしない
ながれてきた時間(トキ)もひとしいから 愛しいから
知ってるんだ 知ってるのに
20131205 08:16
進みましょうか、真っ直ぐ
*
目の前ではツアーガイドが右に左に忙しなく 手のひら上に広げてさ
つき従う金魚の糞たちも あっちこっちに首を向けてさ
「右手は、これまた有名な地獄の大釜で御座います。これは確かに、罪人蜘蛛の糸をも掴む、というのも頷けますね。先ほどの釈迦さまに頼んで、下ろして貰えばようございました。ああ、間違っても『こら、罪人ども。この蜘蛛の糸は己のものだぞ。お前たちは一体誰に尋いて、のぼって来た。降りろ。降りろ』なんて言ってはなりません、いけません。いつ糸よりだいぶん細くて短い、彼の方々の(といいながら釜のある方を指して、)堪忍袋の緒が切れるとも分かりませんから」
時々に変に敬語をまじえながら ガイドは必死の形相を真似てみせる
あはははは、笑い声が響く
バカみたいに笑ってさ 何が楽しいんだか
さあ皆さん 御覧になりまして
段々と調子が上がってきたのか ガイドの一際高い声
「こちら、お次は……」
少し前を行く男が振り向いた
張りついて剥がれなくなったようなさ なんだいそれは笑顔かい?
その髭だるまが笑いながら言うことにはね
なんだいお前さん、前ばっかり向いて。こんな愉快は滅多にねえぞ。ほら、どうだい一緒に、
*
僕はいいよ