20131203 22:01
闇夜の蛍。飛び回る彼は言う。
「気づかないでしょうけれど、月すらないの」
ああ、本当。空が真っ黒。
いつも、重なる陰の隙間から射し込んでくるものは、嘘だったのかしらね。
「さあ、知らないよ」
でもね、と彼は続ける。
「所詮そんなものなんだ」
もうすぐ夏が終わる。
儚い幻であったかのように、その内に彼らはふいと消える。名残すら見付けられなくて。
「いいんだよ、それで」
「きっと初めから無かったのさ」
ふわりふわりと、中空を漂いながら。私は、微かに目の奥に残る、やがて消える軌跡を追っていて。
だからね、光る君は言う。
「黒染めの衣ばかり重ねることなんか、お止めなさいな」
疾うに廃れて、沈む日を背に海を渡ってきたものに、想いを託してどうするというんでしょう?
*
一面の雪の中に花が一輪咲いていたらきれいだと思う。
それが、血のように紅い花ならなおさら。
黄や青、紫だって同じでしょう?
いいえ、いいえ。
あの色でなきゃ駄目なのよ。
色を探して、さがして
鮮やかなひかり、いたみ。
泣き出してしまいたかった。
そこに身を投げ出して、叫びだしてしまいたかった。
でも、触れられない。
自らの両の手を広げ、見る。
ああ、私じゃあれに、さわれない。
眩しさに目を細めながら、微笑いました。
そうしたらきっと笑ってくれるだろうから。
ああ、本当。
なんにも知らないのね、きっと、ずっと。